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2022.05.19

自治体DX

「佐賀県DX事例」 2/5連載: 10年前に救急医療のDX化が実現できた背景

「佐賀県におけるDX推進事例」 

弊社代表の森本が2011年から5年間就任していた、佐賀県のCIO(最高情報統括監)時代の経験を基に、昨今話題の「自治体のDX化、テレワークの導入・定着をどのように遂行したか」について連続コラムを展開致します。 


森本登志男 

2011年:佐賀県の最高情報統括監(CIO)に就任。基幹情報システムの開発・運用コストの大幅削減や4000人の全職員を対象としたテレワークの導入を行う。
第16回日本テレワーク協会会長賞受賞(佐賀県庁として) 


 

 


2. 10年前に救急医療のDX化が実現できた背景 

2020年から新型コロナウイルスの感染が拡大し、感染者が急激に増えた緊急事態宣言発令期間中は、全国で医療機関における患者の受け入れが困難を極めました。
特に2
021年11月末時点で過去最大の感染者規模となった第5波の感染が広がっていた2021年夏には、救急搬送時の医療機関受け入れまでに4回以上の要請、30分以上の現場滞在を要する「搬送困難事案」が急増したのは記憶に新しいことでしょう。
このように搬送が困難となる背景として、患者を搬送する際、救急隊員がかたっぱしから病院に電話をかけて受け入れ先を探しているという現状が多く報道されていました。
 

 

佐賀県では、コロナ禍から遡ること約10年、
(2
011年の4月当時発売直後だった) iPadを県内すべての救急車に配備し、同時に救急搬送システムをクラウドに置き換え、
『救急隊員が県内の全救急医療機関の救急搬送受け入れ可否情報や各種医療情報をiPadで確認できる体制』を整備しました。 

 

その結果、救急車内で「受け入れ先の病院を探す負担」が大幅に軽減され、中小規模の医院も含めたすべての救急医療機関の空き状況を把握できるようになり、それまでの大病院への搬送集中から「搬送先の平準化」へと大きく貢献しました。
また、救急患者の平均搬送時間を約1分短縮出来ました。
たった1分と思われるかもしれませんが、当時、平均搬送時間を短縮する事例は「全国初」であり、それほど解決の難易度が高い課題であったのです。
 

この先進的な救急搬送体制は徐々に知られるようにもなり、その状況を学びたいという若手の医療従事者も増えました。 

 

※ITMediaより引用:救急搬送をiPadで見える化した佐賀県、地方自治体のIT活用探訪) – ITmedia エンタープライズ

 

2011年に、iPadの県内救急車全50台への導入が実現した背景には、当時の県庁健康福祉本部 医務課の職員の活躍がありました。彼らは救急医療の現場における課題を明確にするため、救急車の中や患者を受け入れる救急病院の現場に昼夜を問わず張り付き、救急隊員や病院職員が「何にどのように対処しているのか」現状の把握に努めました。

 

システムやデバイスを導入しても、現場で実際に業務にあたる担当者が使いこなせないような難易度が高いものであったり、また、一刻を争う救急医療の現場において利用に時間がかかるようなシステムであっては、実際の運用には耐えられないものになります。
医務課職員が救急車内や病院の現場に出向き、そこにいる人達が何にどのように対処しているかを正確に把握したことにより、現場の運用負荷が軽減される形でi
Padを導入し運用することにつながったのです。 

 

それから約10年が経過した2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時期の佐賀県医務課では、救急搬送の現場において次の2つの対策を講じました。
1. ひとつは、救急車内のiPadに実装されているシステム「99さがネット」上で表示される医療機関のリストに、感染症指定医療機関の表記を追加したこと。
2.
もうひとつは、患者との最初のやり取りの段階で救急隊員がコロナ感染の疑いに関する状況を 「イエス/ノー」でたどって行くことで、対処方針を分類できるフローを作成したことです。
これにより、救急隊員が行う確認業務の時間短縮と、医療機関側が受ける問い合わせの本数と対応時間の削減につながりました。
 

 

既に10年もの間、デジタル化された仕組みを運用してきた佐賀県の救急医療の現場では、コロナ禍での混乱を最小限に抑えています。 


>次を読む:「佐賀県DX事例」 3/5連載: DX推進に必要なもの 01 – 組織体制(手順)

前を読む:「佐賀県DX事例」 1/5連載:情報システムコストの大幅削減

 

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